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【水論】 何が問題?どう変わる? 水道法改正と私たちの暮らし
          (ドキュメンタリー映画「最後の一滴まで」制作実行委員会/水道法改正に関する資料)

2018年11月19日

(はじめに)
● 水道法改正案は「事業の基盤強化」が目的。ではなぜ基盤の強化が必要なのか。
① 過去40年間で40%以上の職員が削減された水道事業。とくに2000年以降の削減は加速の一途で、一気に人材と技術が失われたと言われています。業務の外部委託化の多くは、地方公務員「削減」のための削減であ り、多くの現場を抱える水道事業職員の削減率はとくに顕著に表れています。
② 選挙を抱える地方の首長や地方議員は、現実的な水道料金の値上げの議論さえ進めることができず、全国の約3分の1もの事業体で料金回収率が100%を下回っています。(いわゆる原価割れ)
③ 高度成長期に整備された水道施設の老朽化が進んでいます。全国の水道管路のうち約15%は耐用年数の40年を超えています。また、半世紀以上稼働する多くのポンプやモーターなど、長寿命化を図りながら使用しています。
 これらの問題を乗り越えて持続可能な水道事業を展望する目的として、「事業の基盤強化」は、何よりも重要であることは言うまでもありません。

(背景と特徴)
● コンセッションは「もうひとつの民営化」
 今回の水道法改正案では、民間企業による水道事業の経営を可能にした条項を盛り込んでいます。政府は「2013日本再興戦略」以降、「公共による管理から、民間事業者による経営へと転換する」とし、その手法にコンセッションを推進しています。「公共サービス・資産の民間開放」「公共サービスの産業化」(要は民営化の推進)を成長戦略としています。
 今年7月、第196回通常国会で衆議院通過しましたが、審議の中で政府は「コンセッションは民営化と全く違う」と繰り返し答弁しました。果たしてそうでしょうか。
 経済財政諮問会議・産業競争力会議・立地競争力等フォローアップ分科会などで「コンセッションはインフラ関連企業や投資家にとって大きな新規のビジネスチャンス」とあり、「コンセッション方式の導入」=「水道事業の運営権売買によるもの」という構造である限り、「もうひとつの民営化」ではないでしょうか。

● 水道法上の責任と経営リスクを回避するための法改訂
 改正案にある運営権の設定(コンセッション)では、民間企業は事業認可を取得しません。これは「施設所有は自治体に残る」というより、正しくは「事業認可が自治体に残る」ということを意味しています。
 自治体が事業認可を保有したまま、住民やエンドユーザーと給水契約を結び「水道法上の責任を負う」ことと、民間企業(運営権者)が投資を呼び込みながら「水道料金を直接収受して水道事業を実施する」ことを一体とするものです。災害時などを含む事業のリスクは、自治体(市民)に限りなく負わせ、料金徴収による収益は、将来にわたって民間企業が得る仕組みです。
 水道法上の「給水の義務」と、災害時などの経営リスクを回避・軽減する法改正が行われようとしているのです。

(問題のポイント)
● 省令で変更可能なコンセッションの「許可」基準、技術的細目
 運営権の設定は、改正法案24条の4によれば、厚生労働大臣の「許可」が必要とされています。政府の説明では「運営権の許可の申請と許可基準(24条の5・6)に相当のハードルを設けたとしています。具体的には、「コンセッションを行う民間企業が収受する水道料金が適正であり、コンセッションにより水道の基盤の強化が見込まれるものでなければ許可は与えてはならない」としています。しかし、その許可基準のハードルは、国会審議にかけることなく、法案成立後に政府方針によって変更可能なものとなっています。

● モニタリングが必要なコンセッション、困難なモニタリンング
 運営権者(コンセッション事業者)に対して、自治体はアカウンタビリティ(説明責任)を求め、モニタリングを通じて事業を検証し、運営権者(コンセッション事業者)は契約を遂行することになります。継続して行われるモニタリングの重要度は非常に高いものの、そのときすでに自治体・公営水道には技術を継承し人材を育成していた現場はすでに無く、長期にわたるコンセッション契約をモニタリングできる能力そのものが失われています。モニタリング体制の整備にコストがかかるのであれば本末転倒であるし、モニタリング自体が外部委託化されるなら、客観的かつ公正なモニタリングは困難です。

● 給水契約が民間企業の収入を保証する契約に転換される
 コンセッションを行う民間企業は、住民・エンドユーザーが支払う水道料金を直接収受します。改正案では「利用料金」と称していますが、利潤や投資の回収や配当など、全て水道料金から得ることとなります。
 コンセッションは、「給水の義務」という公共の責任を介して、民間企業の収入を保証する契約に転換されるものです。「当然に給水契約上の利益を享受する」改正案24条の8によって、市民・エンドユーザーは水道料金を強制徴収され、事業認可を持つ自治体・公営事業体は、直接的な利益を追う民間企業に対して、そのバイパスになるだけなのです。
 コンセッションのメリットとされる「民間資金の活用」は、民間企業の資金調達によって運営権対価を自治体に支払うが、民間資金は利潤・配当付きの回収であり、それらの内訳はすべて市民・エンドユーザーが支払う水道料金です。
 そもそも、水道料金についても、「条例で定められた範囲内」とする自治体と、儲けの最大化が目的の民間企業との間では、水道料金の水準設定と引き上げをめぐり対立しつつも、最終的には事業継続を武器にした民間企業の要求通り、値上げとなることが予想されます。

● 災害対応と復旧で複雑化・非効率の懸念
 改正法案では、「災害その他非常の場合における連携および協力の確保」についての条文が新設されています(39条の2)。災害時・非常時に対応する水道の「基盤の強化」があらためて問われています。
 しかし、コンセッションを「選択した」自治体・公営水道では、現場の人材・技術を持ちません。コンセッションを行う民間企業も、水道事業者としての責任を負う一方で、PFI法のガイドラインにあるように、自らが災害時に不合理なリスク負担を負うはずもありません。
 自治体・公営水道とコンセッションを行う民間企業との間で、どのような責任・リスク・費用を分担するのか、さらに近隣市町村との連携(応援する・される)など、より複雑化・非効率化してしまうのではないでしょうか。

(海外の再公営化事情)
● 新規PFIを中止するイギリス
 イギリスの官民パートナーシップ(PPP)大手請負企業カリリオンが、2018年1月に倒産しました。同月にイギリスの会計検査院は、PFIの「対費用効果と正当性」の調査を行い、「多くのPFIプロジェクトは、通常の公共入札プロジェクトより40%割高」「公的財政に恩恵をもたらすというデータは不足」と報告しました。イギリス下院の公的会計委員会議長メグ・ヒラー氏は、「25年間のPFIの経験は、民間の負債を相殺するだけの恩恵がないことを示した。多くの自治体は変更に膨大な費用がかかる柔軟性のないPFI契約につながれた状態」とPFIの取り組み自体を痛烈に批判しました。10月29日、イギリス政府は、「今後新規のPFI事業は行わない」と宣言しました。
 いまイギリスでは、労働党と労働組合そして市民グループや有識者などがPPP/PFIの停止を訴え、「必要なのは公的な倫理と確かな管理で、公務員によって提供される公共サービスだ」という、労働党党首ジェレミー・コービンのアピールは水道事業の国有化の訴えと併せ、圧倒的に多くの国民の支持を得ています。

● 再公営化したパリ市水道は、公共サービスのモデル事業
 パリ市の水道は、1985年から2009年までの25年間、スエズ、ヴェオリア系の民間企業によって民営化事業として行ってきました。その間、不透明な会計による利益隠し、企業グループ内での資材調達による過剰請求、必要な再投資の不備などがあり、水道料金は174%増加しました。
 このような状況を受けて2010年に再公営化、多くの事業改革が行われました。株主配当や親企業への収益還元の必要がなくなり、事業一元化で経営・運営が効率化され、2011年には水道料金は8%の値下げがされ、当時の再公営化を果たした水道トップ(兼副市長)のアン・ル・ストラ氏は「水道事業で得た利益は、地域と水道事業にすべて還元することができた」と公言しています。
 その後パリ市は、水道事業による総合的な流域管理に取り組みむとともに住民参加を確立、国連公共サービス賞を受賞するに至りました。

(まとめ)
 いま改正水道法案を取り巻く状況は、いよいよ崖っぷちというところまできています。当初の「水道事業の基盤強化」として検討されてきた内容に加え、突如として強力な背景を持って挿入されたかのような法案24条にある運営権の設定、いわゆるコンセッションは、上述の様々な観点から見ても、基盤強化とは反対の性質を持ったものであると言わざるを得ません。
 すでに地方議会では、水道法案に反対する意見書が続々と採択され、法案成立後の地方での混乱は間違いのない事態です。また、水道コンセッションを推進する政府の動向を注視すれば、様々な憶測が飛び交う事態となっており、私たち国民すべてに影響する大きな問題である「水道」について、いま一度あらためて「自分ごと」として、深く再考しなければならないものです。
 世界の潮流は、行きすぎた民営化を背景に、いま揺り戻しが大きく起こっています。これら失敗の経験と言われるPPP/PFI、コンセッションの構造を、災害の観点も重い日本の水道に、当てはめて行えばどうなるかは、火を見るより明らかであると考えます。本日の映画が、日本の水道の未来を考える端緒になることを願うものです。