PSI第31回世界大会に参加して
水情報センター代表 古矢 武士
世界的な水環境の実態等を把握するため、PSI第31回世界大会に参加して来ました。
大会は10月12日から18日にかけて、「多重危機・気候変動において、利益よりも人々の生活を優先する」を基本理念に、スイス・ジュネーブで開催された。
PSI(国際公務労連:Public Services International:略称:PSI)は、公共部門労働者の国際的な労働組合連合組織で、世界156ヵ国、635の労働組合が加盟し約2,000万人が集っており、組織している労働者は国家、地方の行政当局、ガス・電気・水の生産と供給に従事する公共サービスを市民に提供することを目的とする機関に雇用される職員である。
大会では、PSIとして水とエネルギー部門において、加盟組織による民営化から再公営化の取り組みを支援してきた公益事業報告がされた。
ナイジェリアのラゴスでは、PSIと市民社会組織が水道民営化プロジェクトから撤退するよう世界銀行に圧力をかけ成功を収めた事例や、インドネシアのジャカルタでは、労働組合と賛同団体が法的手段やデモを通じて水道事業再公営化を求めるキャンペーンを展開している事例の紹介、また、ブラジルでは「もう一つの世界水フォーラム(FAMA)」のイベント企画への参加を通じ、水の民営化問題に世界的に取り組む決意が示された。
特に、ナイジェリア・インドネシア・韓国・ガーナは、国際金融機関が支援するエネルギー民営化プロセスに異議を唱えた。
PSIは、再生可能エネルギーへの公益事業としての投資を可能とする世界貿易ルールの変更や、気候に関する政府の行動強化の必要性を強調しており、水を享受する権利に関する国連特別報告の作成への協力など、国連機関の活動への関わりは、政策提言活動の知名度の向上につながったとし、国連世界水事業者パートナーシップ(GWOPA)を支援し、公共事業者間の優れた事例の共有を図るとしている。
また、欧州公務労連(EPSU)と共に公益事業および賛同団体と協力して、水に関する官官パートナーシップ(PUP)に向けて欧州委員会から700万ユーロの融資獲得に尽力し、獲得した資金は、GWOPAが監督することとなった。
PSIは、国連世界水開発報告書の作成に関わり、公共インフラおよび公共政策に焦点が当てられるよう努め、水とエネルギー部門の加盟組織を対象とした世界的ネットワークを構築したと活動報告がされた。
水に関する分科会・フォーラムでは、各国の参加者による報告・意見交換が行われ、世界で相次ぐ異常気象により、記録的な猛暑や干ばつに、大雨による洪水など、世界各地で極端な気象現象が起きている現状などについて多くの発言がされた。
昨年、ヨーロッパでは「過去500年で最悪」ともされる干ばつに見舞われ、パキスタンでは「国土の3分の1が水没した」ともいわれる洪水が発生しました。
渇水に見舞われたスイス・ブルネ湖
この20年とその前の20年を比較した場合、干ばつは1.29倍、洪水は2.34倍も増えています。とりわけ干ばつに見舞われた地域では、大地はひび割れ、ダムが干上がるなど、深刻な水不足も起きています。
洪水に見舞われたパキスタン
水は、ある国とない国、多い時期と少ない時期と偏って存在しているため、たくさんあるように見えても、実際に使える水が足りなくなるような季節や場所があり、雨の降り方が気候変動の影響などによって変化すると、強く降るところと、今までになく乾燥したところが出て、その対応に苦慮するという問題が発生します。
また、人口の増加も水不足に拍車をかけています。国連は世界の人口が80億に到達したと発表しました。WMO=世界気象機関が去年公表した予測では、地球温暖化や人口増加などによって2050年までに世界で50億人、2人に1人が水不足の状態に陥ると言われています。
暴力をともなう争いが起きたとみられる国もあり、水不足が深刻化した地域で、武装した人々による銃撃戦が起きるなど、農業用水などをめぐる部族どうしの対立から発展するケースもあるようです。
社会が脆弱な国では、豪雨の影響も水不足の影響を受けやすく、日本では同じような豪雨・干ばつに対しても、一定程度対応できる基盤を作ってきましたが、今後は、その知恵や経験・技術力を水で困っている地域の人たちに教え、世界全体の水の安定に各国が協力していくことが重要であると、改めて認識しました。