メッセージ

2018年 年頭にあたり

水道事業の「公共性の再構築」が求められる時代に

全日本水道労働組合 中央執行委員長 二階堂 健男

 

私たち全日本水道労働組合(以下 全水道)は、1951年11月に全日本水道労働組合連合会(以下 全水連)が組織され、その後現在の全水道が1961年3月に結成されました。

全水連結成当時は戦後6年を経たとはいえ、国民生活は劣悪な中で「水の民主化運動」を掲げ、水道普及など水道事業の発展を基本に働くものの立場で「全国水道事業研究集会」を開催してきました。その後、1957年に現在の水道法が制定され、私たちの運動も水道法の目的でもある「清浄・豊富・低廉」な水道を守る運動へと発展していきました。

水道法制定60年を振り返り、水道事業をめぐる時代の変貌とともに改正された水道法、そして現場に働くものと運動の歴史には大変意義深いものがあります。

水道法が制定された1950年代から1970年代は、水道の普及が問われる時代でありました。水道事業運営の動力源である電気料金に電気税が課せられ水道財政に大きな負担となっていた問題もありましたが、水道を市民・国民に“低廉”な供給をはかるため、電気税を撤廃し水道財政負担を大きく軽減してきました。

1960年代後半から1980年代にかけた高度経済成長期は、公害問題、水質汚染が深刻となり、水量確保だけなく“清浄”で安全性が問われる時代に突入し、私たちは“ブルーウォーター作戦”と称して清浄な水を守る運動を進めてきました。その後、1977年には広域水道推進となる水道法改正が行われました。

1980年代から2000年代は持続性の時代を迎え、事業継続が問われ地方分権推進、地方自治の再確立運動を目指す中、2002年の改正水道法では第三者委託が法制化、2003年には水質基準の見直しが施行され、働く現場も水道事業の公共性を強く認識することとなりました。

そして2000年以降、21世紀の水道法はいかにあるべきでしょうか、水道事業をめぐる様々な危機(水質、水量、財政、技術、人材)から脱却し、公共性の再構築と重要性、住民参加など社会的合意形成がはかられる水道事業でなければなりません。2018年は水道法改正が見込まれる中、水の公共性を踏まえた事業基盤の強化、とりわけ中小事業体では地域格差是正がはかられることが前提として、広域化では公公連携推進など水道事業の将来像となる法改正に期待します。

ご挨拶

水情報センター
代表 三戸 一宏

 全水道会館は、2013年2月1日に一般財団法人移行が認可されました。一般財団法人移行にあたっては、新たな公益目的事業として「水情報センター」を設置して、水・エネルギーに関する調査・研究をはじめとする諸活動と、情報発信基地として新たな事業を進めることにしています。

 今日、気候温暖化、環境汚染などによる水環境汚染は顕著な改善が見られず、飲み水は地球規模でみると危機的状況になっていますが、将来にわたって国民に安心・快適な水道・下水道として提供されなければならなりません。同時に、世界の水事情を見たとき、世界中で安全な水を飲むことができ、公衆衛生の観点から下水道敷設の為に技術援助などの役割を果たさなければならないと認識しています。

 具体的には、水道水源の水質悪化を改善して、安心・快適な飲み水の供給と、衛生的な生活のための下水道を普及することによって、公衆衛生の向上につながる。このため国内外の水問題に関する調査・研究・発表、講演会・セミナー等の開催と、NPO・市民団体の取り組みを支援する事業と位置付けています。

 公益法人改革を機に社会的役割を果たしていく決意ですので、皆様方のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。

2015年10月

メッセージ

水道事業に誇りと情熱を抱く人材で、課題解決を!

全日本水道労働組合

 中央執行委員長 永井 雅師

 

飲料しても消化器系疾患とならない衛生的な水の供給が1887年(明治20年)、近代水道と称し横浜をスタート、以降、港湾都市で続々誕生し、いまや普及率も97.7%となり国民皆水道となった。

かつては渇水による時間断水があったが、昨今では水道水源の化学物質の汚染や管路事故、災害や工事が発生しない限り24時間、水道法に適応した水の供給を受けられることから「近代水道」の言葉を聞く機会がなくなったが、あらためて先人たちのたゆまぬ努力で現在の水道があると敬意を表するものである。

このような世界に誇れる日本の水道であるが、普及率を高める所期の目的はほぼ達成されたものの、人口減少化時代の突入や節水機器の普及に伴う給水収益の減少、他方で震災対策など安定供給に向けた施策の推進が求められるなど大きな社会変革の中で、市町村が原則経営する水道の将来と持続性を展望した場合、主に小規模事業体で持続可能な水道に黄色もしくは赤信号が灯っているのも事実である。

こうした実情を踏まえ国(厚労省)は2015年3月、様々なデーターをもとに水道のあるべき将来像と具現化に向けた方策を示しつつ「地域とともに、信頼を未来につなぐ日本の水道」を基本理念とした新水道ビジョンを策定。また2015年(平成27年)9月、地方分権改革の閣議決定を受け、国から都道府県への水道事業の認可権限移譲にあたっての要件等を検討する「水道事業基盤強化検討会」での議論が開始され、本年1月に「中間とりまとめ」が行われたところである。生涯、水道事業に携わった経験と労組活動を通じて多くの水道関係者との出会いなどから学んだことを踏まえ、持続可能な水道のありかたについて考えてみる。

 

ほぼ国民皆水道となったのは、市町村経営原則による

古代ローマ帝国時代のアピア水道や400年以上の歴史をもつ江戸水道は何かの機会で見聞しつつも、日本の近代水道創設の歴史に関しては、事業者とその関連団体の関係者以外あまり知られていない。

その歴史であるが、鎖国制度とかれた江戸末期から明治初期にかけ、コレラなどの伝染病が大流行し、内務省衛生局によると1877年(明治10年)以降、患者数が数年おきに数万から10数万を数えたとのことである。この疫病の流行は主に不衛生な飲料水に起因するとして井戸の汚染防止策含め「飲料水注意法」を通達するも残念ながら功を奏さず、政府は対処療法的な対応ではなく予防的対策が必要として水道布設を建議、所要の法整備に着手してきた。その後の閣議で、水道布設は莫大な資金と高度な技術力に加え、継続的、安定的に経営させるには利潤の追求を目的とする私企業より市町村が適切と判断された経緯がある。水道布設の目的も「衛生上の目的就中悪疫流行予防にあるので、水道経営に営利主義を排し公益優先主義をとる」として、現在の地方公共団体経営を原則とする水道法6条の原点となった。こうした創設の歴史を背景から水道法の目的に「公衆衛生の向上と生活環境の改善」が定められ、厚労省に水道課が設置されているほか、水道は国民の健康と日常生活に不可欠な施設であるとの認識のもと、国の財政的関与や水質基準におけるナショナルミニマムが確立されている。

近年、政府による規制緩和政策や市場原理優先の考えのもと、水道においても様々な運営形態議論があるが、予知予見が不可能な社会を考慮すれば、公共の福祉の増進を責務とする水道、「生命の水」を供給する水道の経営主体については、行政区域内の実情に精通している自治体の責任で行うのが需要者にとって最も利益があると考える。しかし、一方で、近年、市町村経営であるがゆえの問題点も散見される。多くの識者や研究機関から中小規模の事業者に対し、現状と課題を指摘されつつも、何故、財源確保、資産管理、施設更新、技術者の確保など、持続可能な水道の将来構想を描かないのか、、具体的実践に着手しないのか、できないのか考えてみる。

 

水道職員の大幅な減少と技術継承、事業管理者等のリーダーシップ問題が背景にある

水道事業が市町村経営により普及率が向上した一方、バブル経済崩壊による自治体の税収悪化、国と地方政府の構造改革推進のもと、すべての団体で総人件費削減を余儀なくされ、その傾向は残念ながら現在も続いている。

全国の水道職員の過去30年間の推移をみても3割減少し、自治体一般会計部門より多く削減され、いまや4万9千人を割った。この理由には、2001年以降、市町村の行財政改革による総人件費削減、団塊世代の大量退職と新規職員の大幅採用抑制、業務の外部委託化によるもので、自治体によっては水道が企業会計であるにもかかわらず、市長部局との人事上の力関係もあり、一般会計部局に比して多く人員削減を求められた事業体も数多く存在する。

一般社会同様、水道界でも団塊世代の大量退職に伴う技術継承問題が指摘されてはや10年、事業に精通した水道の番人、様々なノウハウと体験をもった職員の大幅な減少や不在は、資産管理、施設の改良・更新など今後の持続可能な水道の中長期的計画の立案、策定はもとより、近隣団体との施設の共同管理などの経営統合、広域化議論の参画にも大きな影響を与えることとなる。市長部局との人事交流は否定しないが、行き過ぎた人事異動は専門の知識や経験が少ない職員が多くなることから、将来構想の立案に加え災害、事故時などの緊急時においても十分に力量が発揮できない。水道技術はどの部署においても一朝一夕では習得できず、現場では住民対応とマニュアルにはない判断力が瞬時に求められることから、計画的な職員採用とその職域に精通した職員の確保、育成が絶対不可欠と考える。

一方、将来世代に確実に水道を引き継ぐため自治体人事は極めて重要である。事業管理者および部・課長などその事業体の責任者に就任するものは、将来を展望した経営感覚と水道への強い愛情、リーダーシップが絶対要件と考える。これまで喫緊の課題が山積するにもかかわらず、先送りしたり自らは関わりたくないなどの無責任役職者の存在など、「放漫経営」といえるトップの姿勢をいくつも垣間見てきたが、水道の責務の認識が希薄な人材は幹部職員として適格性を欠くだけではなく、何よりも部下の意欲低下や後世に責任転嫁、つけを回すことになり、結果、安全、安定供給に支障をきたすことになり、需要者との信頼関係を失ってしまう。事業管理者の任命権者である自治体の首長にあっては、市町村民の生活と水道の果たす役割、独立採算制での企業経営であることを今一度強く認識し、人事にあたっては、単なる行政組織の配置ではなく、4年任期の全うと「公営企業の経営に識見と能力を有するか」どうか、他の役職人事も水道事業の幹部としてふさわしいかどうか、真剣に考えていただきたいものである。企業は人なり、公営企業の水道も同じである。水道に強い愛情と責任感、問題を改善する勇敢な人材を育成、確保し、現状分析と中期的な誌シミュレーションを策定できれば課題は解決できる。

 

経営基盤強化に向けた施策の推進と財源確保問題

水道の持続性を維持するためには国の施策はもとより都道府県、事業者間の連携強化が求められるところであるが、まずは事業体の自助努力として、持続可能な方策をあらゆる角度から内部議論すべきである。

人材確保は記述したのでさておいて、財源問題では水道料金はサービスに見合う適正な水準か否かである。昨今、首長の政治的な思惑に加え、経営に余裕があるのか詳細は不明だが、料金を引き下げている事業体がそこそこある。重要者にとっては、ありがたいところだが、安全、安定供給に向けた施策の整備など中長期的視点と財源見通しなど、慎重にも慎重を期した結果の引き下げならともかく、目先の観点からでは問題がある。それは、中小規模といわれる事業体は、水道創設の経年数、人口集中度、良好な水源が身近にあるか否か、地理的条件等々で事業コストが大きく変わる。当然、公益事業であることからも特別の事情が発生しない限り水道法上、給水の義務が生じる。

これまでは水道が地域独占であり、施設についても更新時期に達していない、あるいは大幅な赤字が継続しない限り事業運営に神経を使ってこなくても許されてきたが、不透明な社会経済情勢を鑑みれば、水道料金が総括原価方式の下、適正化なのか事業体内部で真剣に議論する必要がある。当然、料金改定(引き上げ)が必要となれば、需要者の理解が得られるか、議会で承認されるか疑問視、不安視される。しかし、そのことは、地域住民にとって、ライフラインの中でも欠くことのできない水道について、情報は提供されてはいるものの、それが一方通行に留まっていたからとも言える。そこで、日常的に水道システムを理解していただくためにも、地区ごとや町内会単位で水道の「出前講座」を開催して、水道の現状と将来を展望した施策の推進の必要性などの将来構想を説明し、水道はなくてはならない身近な存在として改めて理解していただく努力が求められる。当然、住民説明会となると、どんな意見、質問にも応答できなければならないし、住民からすれば真剣な熱意が伝わり、仮に数年後、料金改定する場合、少なくとも参加した住民の理解は得られると考える。

今一つは、水道事業は赤字も利益も生み出さない収支相償での経営が原則であるが、将来の事業を継続するための財源として、同じライフラインであるガスや電気同様、資産維持費の導入を真剣に考える必要がある。確かに水道法で料金は「低廉」とうたわれているが、その精神は維持しつつも水道の持続性、次世代への水の供給を優先すれば総括原価に資産維持費導入が必要である。当然、条例改正となることから公正、中立的な住民参加の審議会設置と答申に加え、住民代表である議員に丁寧な説明を行うことは言うまでもない。このことは云うは易いが、まず事業体内で料金改定方針が策定できるか、次に首長と需要者の理解を得ることができるか、様々な分析に加え相当な覚悟と労力が伴うことになる。もし将来に責任を持たない首長であれば、諫める勇気が求められる。これらのことが実現できれば、未来永劫とまでいわないまでも、少なくても10年単位で水道を維持できる。

 

専門家集団育成のため、研究所を併設した「水道学校」の設置を!

これまで市町村経営に係るいくつかの評価について述べてきたが、事業体のリーダー含め、職員配置が自治体の人事異動による配置であることから、腰を据えて「水道人」になるとの考え方を抱かない人がいる。

そこで水道に強い愛着を持つ人材、一生水道を仕事としてやりたいと思う人材を育成するにあたって、事務、技術を問わず新規採用者、他部局からの若手の異動者を中心に、「水道学校」で水道の財政、技術など広範囲な水道の基礎と責務を学ばせることができないかと考える。職場の限られた職員配置の中で期間やその内容をどうするか、水道学校・研究所設立の資金と所管、管理、派遣費用問題など、いくつかの高いハードルがあるが、チャレンジ精神、勇敢な水道人が中小規模の水道を守り育てると信じることから実現できないかと考える。

 

追記)日本を代表する企業の創設者は、「電気製品を作っているが、人もつくっている」と述べたと先日聞いたが、今こそ水道界にも当てはまる言葉である。

(2016年5月記 WATER PLAZA第6号掲載)

水道法の一部改正と水道事業の持続確保に向けて

水情報センター事務局長
辻谷 貴文

今国会で水道法の一部改正が予定されている。改正の目的は、水道事業の持続確保に向けた基盤強化であり、目的自体は賛同できるものの、同時に民営化や民間委託化の一層の拡大に繋がることも懸念され、注視の必要なものとなっている。

我々が日夜働く水道の事業環境を見れば、遡ること20年前頃から業務委託の概念が拡大されてきた。PFI法の施行(1999)や第三者委託を意図した16年前(2001)の水道法改正の中で、多くの職場で直営業務が奪われ人員削減が進行し、公務部門に比べ水道・下水道職員は2倍近く減少している。人口減少社会や進まぬ施設の老朽化への対応なども踏まえれば、「水道事業は人・物・金で極めて困窮している」と断言しなければならない事態にまで至っている。

このような中で全国の水道事業を所管する厚生労働省はこの間(2013~)、これからも日本の水道が世界のトップランナーであり続けるため「新水道ビジョン」の作成を各事業体に求め、さらには老朽化対応に新たな概念を持ち込む「アセットマネジメントの推進」、「広域化」や「官民連携」の推進など、将来にわたり持続可能な水道事業を構築するための施策をいくつも打ち出してきた。

さらに2016年2月には厚生科学審議会生活環境水道部会「水道事業の維持・向上に関する専門委員会」(有識者会議)を設置し、計9回の議論を経て11月には「国民生活を支える水道事業の基盤強化等に向けて講ずべき施策について」として、法改正を視野に入れた取りまとめを発表する等、現実的な解決策に向け相当な努力を行ってきたと言える。こうした水道事業の持続可能性、基盤強化に向けた姿勢は歓迎すべきものである。

しかしその一方で安倍内閣は、「アベノミクス」と自称する経済政策において、公の領域をさらに縮小する、いわゆる民営化路線による経済成長を望んでいる。水道事業についても多分に漏れず、「民営化メニュー」の一つとして明確に定義されている。

2013年にCSIS(米戦略国際問題研究所)での講演・質疑において、麻生副総理が「日本の水道を全部民営化する」という趣旨の発言もあったが、以降の安倍政権下の経済政策方針は、その全てにおいて水道事業の民営化が重要なマイルストーンと位置付けられてきた。

今回の水道法改正は、このような下での改正であり、不見識にも法改正を斜め読みする首長や事業管理者が現れないとも限らない状況にあっては、生命(いのち)の水を守るためにも最大限の注視が求められると考えるところである。

法改正の概要については、改正の趣旨を「水道の基盤の強化を図るため」としながら、
1.関係者の責務の明確化、
2.広域連携の推進、
3.適切な資産管理の推進、
4.官民連携の推進、
5.指定給水装置工事事業者制度改善
と、5点にわたる問題意識と改正内容が示されている。今後の政策の推進に向けた枠組みとなる国・都道府県・市町村・事業者の責任の明示や広域連携方策、不十分であった資産管理の実態整理や指定給水装置工事事業者制度の改善などは、いずれも重要な施策といえる。しかしながら4点目の「官民連携の推進」については、大きな問題意識を持たざるを得ないものである。この「官民連携の推進」が、まさに安倍内閣が進めようとする「水道民営化へのプロセスの第一歩」である。

これまでの水道法上における官民連携の定義は、業務委託を中心とする第三者委託までであった。今回の改正ではその枠を超え、「公共施設等運営権」、いわゆる民間のコンセッション事業者参入を促進させるものとして定義づけられようとしており、市町村運営が原則の地域の水道事業に、大きな波紋を呼ぶものとなっている。

この水道事業に対するコンセッション事業者の参入については、災害有事などの観点を持って見れば「馴染まない」と考える。事業の基盤強化に向けた経営感覚や市町村自身の当事者意識の醸成などは必須であると考えるが、事業そのものを「丸投げ」してしまうことについては、災害時の指揮者の不在はもとより、「市民にとっては高くつく」ものと考える。

仮に水道事業が「儲かるから民間へ」という事ならば、その利益は限られた一部の企業が受け取るものではなく市民全体が享受すべきであり、「民間運営が効率的」と言うならば、原水保全等の長期的投資の観点からの検討も必要となる。

議会構成などを考えれば厳しさはあるものの、水道事業が新たな領域へと踏み込むことを示唆し、事業運営ルールを大きく変更するものであることから、広く国民的な議論と国会での必要かつ十分な審議を求められている。

2017.3.8

水道法の一部を改正する法律案の継続審議に対する全水道見解

事業の現状を知り、地域の水道事業の将来に関与できる枠組み構築を

 水情報センター 事務局長 辻谷 貴文
(全日本水道労働組合 書記次長)

 

「水道法の一部を改正する法律案」(以下、改正案)は、3月7日に第193回国会に提出されたものの、国会での政府・予党の共謀罪法案の強引な採決、安倍首相に対する森友・加計学園疑惑などで審議が遅れ、6月18日に会期延長もなく国会は閉会、このため改正案は、審議入りしないまま6月15日に継続審議扱いとなり、秋の臨時国会へ引き継がれることとなった。

全水道はこの改正案に対し、水道事業の「基盤強化」を求めつつ、「公共施設運営権方式」(以下、コンセッション方式)を導入する仕組みについて問題を指摘、国会での徹底審議を求めてきた。臨時国会での審議にむけて、引き続き同様の姿勢で取り組んでいかなければならない。

今回の改正案で厚生労働省は、改正理由を「人口減少に伴う水の需要の減少、水道施設の老朽化、深刻化する人材不足等の水道の直面する課題に対応し、水道の基盤の強化を図るため、所要の措置を講ずる」こととしていた。

全水道はこれまで、一昨年の「水道事業基盤強化方策検討会」や、昨年の「水道事業の維持・向上に関する専門委員会」など、厚生労働省に設置された有識者会議に永井中央執行委員長が出席し会議の各場面で、水道事業における人材育成や人員増、地域で水道事業体が連携する「公公連携」・広域化の推進をはじめ、水道労働者の立場から事業基盤強化の必要性を訴え、水道政策の行く末に影響力を発揮・注視してきた。

また1月26日には、改正案の閣議決定と国会上程が見込まれるところから、厚生労働省に対して「水道法改正と水道事業の持続性確保向けた要請書」を手交し、「法改正は公共サービスとしての水道事業を継承・発展させるものでなければならない」として、清浄・豊富・低廉の理念の堅持を踏まえた法改正と、コンセッション方式導入に反対するなどの要請を行ってきた。改正案が「水道の基盤強化」を目的としつつ、一方で、コンセッション方式導入を選択することは「基盤強化」の「仕組み」であるよりも、むしろ事業の基盤を損なう危険があることについても警鐘を鳴らしてきた。

3月7日、改正案が閣議決定され国会に提出、当初は比較的早い時期での審議が見込まれ、予算委員会などでも若干の関連質疑が行われてきた。しかし厚生労働委員会での審議は、他の法案審議が優先されたため、審議開始がずれ込み、また共謀罪法案の審議、さらに森友・加計学園問題が安陪首相に関わる疑惑として国会で追及されたことから、審議開始の目途が立たないまま国会会期の終了が迫るにいたった。通常であれば国会会期の延長が行われるところだが、安倍政権は疑惑の追及を避けるために共謀罪「成立」を強行、会期を延長することなく強引に幕引きをはかった。

この間、全水道では国会における改正案の徹底審議をはかるため、水道事業の現状と法案の問題点、とくにコンセッション方式への懸念について野党各政党・国会議員に説明を行い、また自治労とも連携して付帯決議についての検討を進めてきた。また市民集会への参加やマスコミ対応なども積極的に行い、水道事業の重要性と基盤強化の必要性、コンセッション方式の危険性を広く訴えてきた。

改正案は秋の臨時国会へ継続審議とされたが、全水道はこの間の、水道事業の重要性を社会的に喚起する取り組みや、国会対策などの取り組みをさらに強化していく。

「水道法の一部を改正する法律案」の審議を通じて、市民・国民が水道事業に対する認識を深く持ち、事業の現状を知り、その地域の水道事業の将来にしっかりと関与できる枠組みの構築を強化することとする。

 

2017年6月20日